八:吃驚するのは、世の中が結構物騒だってこと。若い娘が他の若い娘に難癖つけて連れ去り、裸にして釣り橋の上から落として殺したなんて、吃驚でさ。
蔦重:既に懲役23年の沙汰を受けている、仲間内の若い娘が白状しているのに、お白州でもしらを切るのに驚きやした。嘘をついているとお上に思われたら、そりゃ「嘘つき、百文の損」どころじゃねぇ厳しい沙汰になる。
熊:しらを切るからお白州か。
八:こら、まじめにしろ(バシっ)。
蔦重:さすがにお上は27年牢獄って裁きをしたな。
八:でも、人を殺して、なんで市中引き回しの上、磔(はりつけ)にならねえんだ。
熊:江戸で人を殺めたら、そうなるよな。
八:しらを切るといえば、筆頭老中のサナエ姐さんの側近が嘘をついた文書を回覧させていたってことで、城中で大騒ぎって聞いたな。
蔦重:姐さん、都合の悪いことにはしらを切る癖があるってさ。
八:政(まつりごと)しているお偉いさんは嘘だらけ。突っ張らなければならない時もあるだろうけどな、誠意を感じねえなぁ。
古琴:ははは、嘘つきと誠意のなさは政向きの性格かもしれんよ。
熊:「口先三寸、二枚舌」、連中は信用おけねえや。
古琴:ところで城中の経産というところは、自分達の策をできるだけ瓦版に書いて欲しいので、派手な政策をぶち上げたがる。けれど、偉い奴は2年程度で担当を変わるから長続きしない。他方、農水というところは、どんな良いことを瓦版に書かれても、「新聞沙汰」になったと嫌う。周りにとやかく言われたくない「村」体質なんだな。殿中にもいろんなところがある。
嘘つきは「百文の損」
古琴:確かにしらを切ったり、嘘はついちゃいけない。特に、自らの保身だけのための嘘や誤魔化しは困ったことだ。だけど相手への思いやりで、あえてつく軽い嘘や儀礼的な嘘もある。英語ではホワイトライ、白い嘘という。
熊:お、落語「芝浜」のカミさんみてぇな話だな。
八:サナエ姐さんは、儀礼的な嘘を作り笑いでするのが得意だな。
蔦重:思い出した、西洋では卯月(うづき)の初日を「四月馬鹿」って呼んで、真っ赤な嘘をついて遊ぶんだ。
熊:え、嘘は白なのか赤なのか、どっちなんだ?
八:ここで白黒つけるな(バシっ)。
熊:いや、白赤なんだけど…。
八:(バシっ)。
蔦重:殿中だけで沙汰をつけられない「沙汰止み」になっても、瓦版が勝手に決めつける時もありますね。
古琴:「世間の沙汰」だな。令和では、世間が許さないSNS沙汰があるけど、公平ではなさそうだ。英語でいうバイアス、歪みがつきものなので、勝手に「恥さらし」されてしまうことすらある。
蔦重:人工知能というのが「AI沙汰」をするそうですけど、大丈夫ですかねぇ…。
八:ところで、熊はカミさんから「音沙汰」がねえんですよ。
熊:うるせい(バシっ)。
蔦重:あ、そうか、音沙汰をしなくてスマンね、ということから「ご無沙汰」って挨拶するんだ。
古琴:そもそも「沙汰」の「沙」と「汰」のどちらも、水で中味を選り分けるってことだという。そこで「物事の是非をより分ける」って意味になった。白州で裁きをうけて、お沙汰を受けて決着をつける。
蔦重:俺はお白州で受けた「沙汰」で散々酷い目にあった。耕書堂で出した山東京伝の洒落本などが「風俗を乱す」って。だから「沙汰」と聞いただけで、身震いしますぜ。
古琴:「身上半減」(財産を半分没収)と、版木の没収・発禁処分だったっけ。
八:でも蔦は吉原にいる頃、「色恋沙汰」が得意だったそうじぇねえか。
熊:「地獄の沙汰も金次第」だぜ。
蔦重:何を言いやがる(バシっ)。
売られた喧嘩は買うけれど
蔦重:ところで、まだ米藩とイラン藩との戦(いくさ)が終わっていないのにも吃驚でさ。米藩のトラ殿様は、2月末にアッという間にカタが付くって言っていたのに。
八:露藩のプー殿様が烏克蘭(ウクライナ)藩に攻め込んだ戦も4年以上続いている。
古琴:多くの人が殺されているのが悲しいね。
八:「売られた喧嘩を買う」ってやつで、攻められたら攻め返しても構わねぇんですよね。
古琴:そこが微妙なんだよ。神代の昔、古代バビロニアという王国があった。戦(いくさ)をしているイラン藩とイスラエル藩の中間、イラク藩の辺りだな。そこの王様がつくった法律で『ハンムラビ法典』というのがある。ラテン語では「タリオ」と呼ぶらしい。
蔦重:あ、聞いたことがある。「目には目を、歯には歯を」ってやつですね。
古琴:さすが耕書堂。
熊:やられたらやり返せよ、ってことか。江戸っ子の血が騒ぐな。
古琴:いや、ここで大事なことは、その意味だよ。仕返しとして復讐や反撃するのは構わないという意味と共に、同害報復といって同じ程度でやめとけって意味もあるのだよ。
八:目や歯をやられたとしても、仕返しは目だけ、歯だけにしろや、ってことか?
熊:殴られたら、倍返し、逆にボコボコにしちまってはいけねぇのか…。
蔦重:喧嘩両成敗に近いかもしんねぇな。
八:たしかに、江戸っ子の喧嘩でも「そこでやめときな」って必ず間に割って入る奴がいる。
蔦重:公事師(くじし)が入って、訴状や仲介なんかを援けるよな。
古琴:ところで、火付け盗賊や殺しの場合、江戸だとしたら沙汰を受けてから「晒し者」(さらしもの)になる。罪人を市中引き回しの上、人目につく場所に一定期間さらした上で、刑罰に処す。
蔦重:見せしめですね。俺が沙汰を受けたのも、他のやつへの戒めとして衆目にさらされた。
熊:オレ達は、いつも「さらし」を巻いているぜ。だから腹を見せることを「晒し者」(さらしもの)っていうのかね…、よくわかんねぇ。
八:そういや、飲み屋でさらしの歌を聴いたよな。「包丁一本、さらしに巻いて、旅にでるのも板場の修行」って。
古琴:昭和の名曲「月の法善寺横町」だな。修業する板前の心意気と「恋沙汰」だね。
八:俺たちも商売道具をさらしに巻いて大事にする。
熊:俺は金槌とかノミや鋸(のこ)。
八:俺は、いろんな「鏝(こて)」だな。
熊:こてこて、いれやがって。
八:うるせい(バシっ)。
蔦重:俺は筆と紙を懐に入れている。
古琴:私はカミサンにもらったお守り。
熊・八・蔦重:のろけ、ごちそうさまです。
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毎度の戯れ言・与太話、お粗末さまでございました。






























