約400年にわたる植民地支配ですっかり国力が落ちたイギリス、フランス、ドイツが苦しんでいる。アメリカは軍事同盟国が60ヵ国以上となって世界派遣を維持することが難しくなり、さらに国内的な分裂も加わって、アメリカの力の源泉となっている世界の金融支配力が低下してきた。これらによって、G7に代表される旧来の支配は影を落としている。
 その代わりとして台頭してくると期待されていた中国、ロシアを含むブリックス集団も、戦争に伴う国力の低下(ロシア)、一帯一路の失敗、国内経済の停滞(中国)などにより、各国はまだまだ発展途上から抜け出せない。
 そんな状況の中で、世界からの期待は日本に集まってきているようだ。
 政治のレベルも高市政権になって向上しつつあり、EV(電気自動車)の低落と相反するトヨタの好調、産業界の技術も半導体製造技術に代表されるように停滞していない。しかし、混迷する世界をリードするに足る圧倒的な力を、日本が持っているとは言えない。
 このような「世界激動期」を迎えている現状を考えると、日本が停滞を防ぎ、躍進を続けるには、何が大切であろうか――そこに焦点を当てて考えてみたいと思う。

日本の国力の源泉


 日本が国際競争の中に入った明治維新以来、発展を遂げ、有色人種で唯一先進国の仲間入り(G7)をした理由は、個人の改善努力と創意工夫、日本人の集団性と平等社会、優れた教育と個人の素質などであり、それを育てた環境として、「和の精神」、「日本語」、「犯罪が少なく、倫理意識の高い社会」などがある。
 より平易に言えば、「資源も少なく、小さい国だから、みんなで一緒に日本や会社のために努力しよう」とやってきたからこそ先進国になることができたのであり、一部の人が欧米かぶれして個人主義に走っても、「今だけ、金だけ、自分だけ」でやっていけるような国ではないというのが本当のところだろう。
 そうすると、激動の世界で日本が繁栄を続けるために必要なことが必然的に決まってくる。そしてそれは、「従来の日本人の多くが考え、実施してきたこと」だから、簡単なことでもある。
 一つの典型的な例を示しておきたい。
 著者が某世界規模の商社の常務取締役経験者と親しくお付き合いをしている時に出てきた「世界的な商社で海外事務所の経営管理」の話だ。
「…日本の商社の経営として楽だったのは、海外の支社での不正やトラブルが少ないことだ。日本人だけで運営をしている小さな事務所はなんのトラブルも起こらない。でも、外国人で構成した事務所では金銭的にも契約上のこともいつもゴタゴタして大変だった。ところが奇妙なことに、ほとんどの雇用者が外人の事務所でも、そこに日本人が一人でも入ると、トラブルは激減する。簡単に言えば『日本人が一人でもいればトラブルなし』と言ってもよかった。日本人というのは特別だね…」
 また、アメリカの超大会社の副社長だった人物は、筆者とアメリカでゴルフをしていた時、1ホール終わる度に、どこかに電話をしているので、「お忙しいですね」と声を掛けると、こんな話をしてくれた。
「…私は世界で7つの工場を担当していて、いろんな国にあるんだが、なかなかトラブルが多くて、こうして細かく指示しないとうまく動かないんですよ。でも、その中で1つだけ、日本の工場は、時々行った時に指示しておけば、ほとんどトラブルが起こらない。ですので連絡が要らないのですよ…」
 日本の会社の偉い人は「日本の企業の発展は、技術が良いから」とか、「経営がいいから」などと言われるけれど、筆者はそうではないと思っている。
 もちろん日本の経営や技術が良いことは間違いないけれど、世界で最も誇るべき日本の特徴は、それよりも「日本人の真面目さ、正直さ」にあると考えている。
 先ほどの2つの話はそれをよく示していて、なるほど世界全体を見ながら仕事をされている経営者の方は、日本の素晴らしいところをよく見抜いておられると思ったものだ。

育まれてきたもの


 これを日本列島の歴史との関係でみてみる。
 日本は土壌が酸性なので人の骨が残りにくいことと、石器時代の終わりから縄文時代の初めにかけて気温が高くなり海水面が約120㍍上昇したため「海岸線近くの遺跡」は海の中に沈んでしまったという2つの理由から、日本列島での文明の歴史は中国より浅いと長らく考えられてきた。
 しかし、実は4万年前から始まった日本の石器時代の早期に摩耗石器が登場しており、それに続く縄文時代では大型の建物や集合住宅、それに樹木や草木の栽培、漁業と海藻の採取などが行われ、定住生活が世界に先立って始まっていたと、近年では訂正されている。
 そのような古い歴史を持ち、かつその中で集団活動が重視され、「和」という概念、それに適した「日本語」の構成、さらには自然を大切にする「神道」が生まれて、「正直を旨とする日本文明」が構成されていったと考えられるのだ。
 世界激動期という大転換に際して、今こそ日本の産業界が〝日本文明に基づく活動〟を力として世界に範を示し、新しい時代を切り拓いてほしいと思う。