生成AIは、〝発明〟を始めたのみならず、ロボットに実装され始めた。それは「フィジカルAI」「エンボディードAI」などと呼ばれることもあるが、ここでは「生成AIロボット」としよう。その計り知れない衝撃をご理解いただく準備として、今回は本論の前説とさせていただきたい。

機械からロボットへ(ロボット発展段階説)


 「全ての機械設備はロボット化する!」
 このフレーズは15年近く前に、私が「ロボット発展段階説」を提案した時に使用したものである。まずはそれを簡単にご紹介しよう。

【前機械世代:道具・用具の時代】
 人類が、ヒトの手先だけで作業する時代から、道具や用具を使う時代へ移行したのは太古の昔である。道具や用具は、人の手先(作業系)を外在化したものだ。例えば、ツメやコブシは石器、水をすくう手先や手のひらは土器といった道具にそれぞれ置き換えられた。狩猟の武器も、農栽培の用具も、それを使うヒトの作業をどれだけ効果的・効率的にするかが問われた。

【第1世代:道具から機械へ=作業系の時代】
 古代から中世へ、人類は、手先のみならず、手足全体の作業を外在化させた。ヒトの手先の作業を担う「道具」から、その道具を使ってヒトが行う「作業」自体の代理代行を担うのが「機械」となったわけである(作業系機械)。

【第2世代:動力系の機械化と道具・機械の併存時代】
 18世紀、人類は作業系機械を緻密化・標準化・分業化して使うとともに、機械を動かす動力系を人力や牛馬から水車・風車といった機械に置き換えた。この作業系と動力系を組み合わせた「駆動系(アクチュエータ)」が進展し、道具と機械を使いこなす軽工業化により第一次産業革命を起こした。

【第3世代:駆動系(作業系×動力系)飛躍の時代】
 19世紀、人類は蒸気機関を発明して動力系を飛躍的に進歩させる一方で、鉄の精密加工を進展させ、作業用機械を強化・大型化した。「駆動系」として動力系も作業系も飛躍的に発達したことにより、一方で大量生産機械が、他方でそこで生まれた製品を運ぶ蒸気機関車や蒸気船が、進展した。結果、第二次産業革命により消費主導の経済社会が急成長した。

【第4世代:記憶・計算系外在化の時代】
 20世紀、人類は多くの機械の動力源を電気に替えた(電動化)。加えて世紀の半ばになると、頭脳の計算・記憶系を外在化させた「コンピューター」を登場させた。それが組み込まれた機械の自律性が高まり、生産性は飛躍的に向上した。

【第5世代:感覚系外在化とロボット誕生の時代】
 21世紀、人類は「センサー」というヒトの感覚系(五感)を外在化させ始めている。センサーを通して大量のデータを集め、その解析結果を活用して機械の能力は飛躍的に向上中だ。
 ここで重要なことは、アクチュエータ(駆動系=作業系+動力系)、コンピューター(計算・記憶の頭脳系)、センサー(感覚系)が一体化したとき、それを「ロボット」と呼ぶ、ということだ。すなわち、機械は「ロボット」化を始めたのである。
 例えば、東京・秋葉原の量販店で売られている家電製品の大半は、今や「ロボット」だ。お掃除ロボットのみならず、白物家電もロボットである。エアコンを例に挙げれば、センサーで部屋の温度・湿度や室内の人の位置すら感知して(感覚系)、そのデータに基づきコンピューターが最適化をはかり(計算系)、羽根を巧みに動かして風量や風向等を調整して(駆動系)、最適空調環境を整える。もちろん新幹線もロボットとみなせる。
 産業生態系の観点からいえば、「ロボットのどこを押さえれば主導権を握れるのか」が重要な問いになる。
 日本企業の大部分は、ついつい駆動系、中でも作業系のモノ(部品や部材)の品質と性能を訴える。スペックや歩留まりが良ければ勝てると言う。確かにそれに越したことはない。だが、(鉄人28号の昔から)ロボットにおいて重要なのは「操縦機(と操縦者)」のはずだ。
 つまり、ロボットのシステム全体の「制御系」を押さえることが、産業やビジネスで主導権を握る肝なのである(このことを踏まえれば、ロボット化によって「ハードウエア→ソフトウエア→IoT→ビックデータ→AIアナリティクス→人工知能→ロボットを経てサービスへ」と価値形成の重点が螺旋循環的に移行していく、という議論をしなければならないが、字数の関係で今回は省かせていただくことをお許し願いたい)。

AIが実装されたロボットの時代に突入


 さて、ロボット発展段階説のポイントを再確認いただきたい。
第1.すべての機器とあらゆる装置設備がロボット化すること。
第2.ロボットとは、アクチュエータ(駆動系=作業系+動力系)、コンピューター(計算・記憶の頭脳系)、センサー(感覚系)が一体化したものを指すこと。つまり、IoTとAIとロボットは別々ではなく、「三位一体」なのだ。
第3.ロボットは電子的制御を前提にするので、制御系に価値が集中すること。
 その上で、次の2点を思い起こしていただこう。
 1つ目は、(本連載でも度々触れたように)人類は、CPS(サイバーフィジカルシステム)の時代に突入していること。そこで、生成AIロボットとは、生成AIがサイバーの世界を飛び出してフィジカル側と組み合わさったCPSの典型と理解すべきなのである。
 2つ目は、コンピューターは単に計算・記憶系のみならず、生成AIという頭脳系に進展しつつあること。生成AIはビッグデータ(超大量データ)を必要とする。良質で的確なビッグデータが外部から提供され、それを基に生成AIの性能は高度化する。
 従来は、外部(ヒト)がAIを使ってデータやソフトを開発し、それがロボットに注入されていた。だが、AIが実装されたロボットでは、自らのセンサーから得られたデータを基に、生成AI自らが制御ソフトウエアを生成し、それを活用してアクチュエータを動かす。そして、その稼働から得られたデータを基に自身のソフトウエアをさらに改善していくようになる。つまり「試行錯誤」を行うのだ。
 「生成AIロボットが、自ら動いて、自ら最適な動きをするソフトウエア自体を試行錯誤的・学習的に生成する」ことができるようになってきたのだ。生成AIロボットは、このように「自ら動いて・自ら学ぶ」「自学自習」することが最重要点なのである。これは何を意味するか? それは次回に。
(本項つづく)