「世界不平等報告2026」(World Inequality Report)が1月に公表された。この報告書はパリに本部をおく世界不平等研究所(World Inequality Lab)が4年に一度のペースで公表、2018年が最初で今回は3度目である。
 26年の報告書によれば、世界の成人56億人を所得(年金や失業給付などを含む、税引き前、15年基準の購買力平価で計算)と純資産別に100のグループにわけ、上位1%(Top1、以下T1)、次の9%(Next9、以下N9)、中間層40%(Middle class40、以下M40)、下位50%(Bottom50、以下B50)に属する人びとが、世界全体の所得および純資産のうちどれだけのシェアを有しているかなど、世界の不平等に関する詳細な分析を行っている。
 3回の世界不平等報告書から次のことがわかる。世界の中間層(Middle40%、以下M40)がもはや中間層としての所得を稼げなくなったということ、上位1%(T1)の純資産シェアが2018年の報告者で予想したペースをはるかに上回って進行していることである。
 所得がT1に集中していけば、M40(中間層)がそのあおりを受け、純資産が所得格差以上にT1に集中していく。ビリオネアなどT1の貯蓄性向はM40より高いし、親からの相続財産も多額であるからだ。


中間層が落ち込む一方でお金持ちはますます豊かに



 M40が中間層と呼ばれるのは、自らの人口比40%(全世界で22億人の成人)以上の所得シェアを獲得しているからだ。
 先進5ヵ国(G5)で最も早く中間層の所得シェアが40%を超えたのはフランスの1939年、最も遅かったのがドイツの54年だった(図参照)。これ以前で40%を超えていたのは米国だけだったが、その米国も大恐慌につながるバブル期半ばの1925年には40%を下回り、再び40%を超えたのは43年。第二次世界大戦後から2003年までが中間層の時代だったといえる。しかし2003年に日本がG5の中で最初にM40が所得シェア40%を下回り、米国も23年に下回った。先進国における中間層の時代は終りつつある。
 G5のM40の所得シェアが最も高くなったのは1980年(英国)から83年(米国)の間に集中しており、中間層の時代の最盛期だった。その後G5の中間層がどこにいったのかをみてみよう。
米英はT1のシェアが10%前後アップし、割を食ったのがМ40とB50だった。フランスも英米タイプだが、T1への集中度が低かった(4・8%シェアアップ)。一方、日独はN9が6%前後シェアアップし、英米と同じくM40とB50がシェアを落とした。
 韓国の場合、大きな特徴はB50のシェア低下が6%と、G5以上に低所得者層が一層貧しくなったことだ。その分T1が6・5%シェアを上げた。G5の中でB50が最もシェアを落としたのはドイツ(5・6%のダウン)だったが、韓国はそれを上回った。こうした傾向から言えるのは、英米および韓国で徹底した新自由主義的政策が採用されてきたということである。
 世界全体で所得分布をみると、T10が所得の53%を占め、M40が38%、B50が8%である。日本の場合、順に43%、38%、19%だ。日本のM40の所得シェアは世界全体とほぼ同じで、T10の比率が10%ほど少ない分、B50が同じだけ世界全体を上回っている。
 しかし、世界全体のM40は2000年の35・3%から徐々に上昇し、24年には38・4%となった。日本のM40が03年に40%を下回り、その後シェアを落としてきているのと対照的である。先進国では所格差が広がり、新興国では中間層が台頭しているといえよう。
21世紀、間層没落の時代へ (出所:WID)
21世紀、間層没落の時代へ (出所:WID)


尋常ではないペースで進む富の集中



 所得格差の拡大が純資産格差をそれ以上に広げている。2025年時点での世界のT1の純資産シェアは37%だった。18年の報告書では、16年の33%から50年には39%に達すると予想。37%に到達するのは2040年代前半のはずだったが、15年以上も前倒しとなった。
 18年の予想は通常なビジネスを前提としていたが、実際にはあと2%のシェアで予測値に届く。これまで9年で4%シェアアップしてきたので、あと4~5年で39%となる。現実は異常なビジネスとなっている。
 異常なビジネスが世界経済をシンボル化させ、中間層の没落を加速させている。16年時点でM40の世界純資産シェアは29%で、18年時点では50年に27%に低下するとの予想だったが、早くも25年に24%となった。19%にまで高めた上位0・1%の5万6千人が保有する一人当たりの純資産は3000万㌦(1㌦155円換算で46・5億円)であり、22億人いるМ40の一人当たりの純資産9万1700㌦(同1・42億円)とくらべて、327倍となっている。
 1980年代以降のIT革命が格差を広げ中間層を没落させているのは、ITに象徴される21世紀のテクノロジーが労働補完型から労働置換型となっているからだ。
 「1980年代までは、製造業に従事するごくふつうの労働者が、大学を出ていなくても中流のライフスタイルを送ることは十分可能だった。だが製造業の雇用機会が減るにつれて、多くの労働者にとって社会階層を上へ移動する機会は閉ざされてしまう」(フレイ『テクノロジーの世界史』)からだ。「中所得の仕事がなくなってしまった地域では社会的移動性が大幅に低下し、上の階層へ上がる見込みはまずない」(同)。
 先進国のM40とB50の合わせた90%の人々が将来不安を抱え、彼らの不満はますます高まる。健全な中間層によって成り立つ民主主義が機能不全に陥る。