いよいよ本格導入の排出量取引



 改正GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が2025年5月、参議院本会議で成立したことにより、日本でも26年度からいよいよ排出量取引制度が本格的に動き出します。
 排出量取引制度は、企業の温室効果ガス排出削減を促すための仕組みで、一定規模以上のCO2を排出する企業に対し、排出枠を設定し、その枠の過不足を企業間で取引できるようにするものです。26年4月からは、年間CO2排出量が10万㌧以上の企業(製鉄、石油、自動車、化学など約300~400社)が対象になり、国内全体の排出の6割程度がカバーされることになります。
 この制度は、日本のカーボンニュートラル目標(2050年達成)に向けた重要な施策の一つであり、企業の脱炭素投資を促進することを目的としています。また、EUなどの国際的な排出量取引制度と整合性を持たせることで、日本企業の競争力を維持する狙いもあります。
 当面の課題としては、26年度から排出量取引制度への参加を義務付けるため、企業に割り当てる排出量の上限を定めるルールを25年度中に固める必要があります。
 エネルギー多消費の業種では、業種別に企業のCO2排出原単位を参照し、なかでも上位に当たる優れた水準を「ベンチマーク」に設定して、この水準以上に引き上げるように排出枠を設定することになります。
 この「ベンチマーク方式」の採用が難しい業種は、直前3年間の排出実績の平均に一定の削減比率を乗じる「グランドファザリング方式」(過去の温室効果ガス排出実績に基づいて排出枠を設定する方法)で排出枠を割り当てることとなる見込みです。

排出量取引の課題



 排出量取引は欧州連合(EU)や中国、韓国などで先行して導入・実施されてきました。EUでは既に域内の企業が、製品やサービスの価格に対応コストを反映しています。今回の改正GX推進法により、日本でも遅ればせながら排出量取引が本格的に稼働すること自体は歓迎すべきですが、いくつかの課題も残されています。
 特に、改正GX推進法では、対象事業者全体に割り当てる排出枠の総量に上限(キャップ)が設定されていません。各企業の申請に基づいて排出枠の割当量がボトムアップで積みあげられると、排出枠が過剰に供給されることになりかねません。この場合、事業者の排出削減への投資意欲を引き出せず、排出削減効果が不十分になる恐れがあります。
 このため排出枠割当量全体が、パリ協定の1・5℃目標やNDC(温室効果ガスに関する「国が決定する貢献」)の達成に貢献するものとなっているかをよく検証し、必要な措置を講ずべきでしょう。また、政府は適切な水準で排出枠が割り当てられるように、キャップの設定と、運用開始後の状況を把握し必要な見直しを行うことが求められます。
 また、パリ協定の1・5℃目標に整合する国際的水準での炭素価格を実現可能にすることも重要です。現在導入が予定されている排出量取引制度では、事業者間で取引される排出枠の価格に上限(参考上限取引価格)が設けられています。価格急騰時対策やこれらの配慮は重要ですが、過度に低く抑えられると、企業の脱炭素投資を促すことが難しくなります。
 例えば国際エネルギー機関(IEA)は、1・5℃目標に整合した排出削減を実現するうえで、炭素価格は先進国経済で2030年までに1㌧当たり140㌦(約20160円)にする必要があると分析しています。
 これらの国際的な動向と乖離しないように、排出削減を促すに足りる水準での炭素価格を目指していくこと、またその妨げとならない上限額とすることが求められます。
 日本企業が脱炭素投資を進めて、国際競争力を維持するうえでも、適切な水準の設定が重要なのです。

今後に向けて取り組み必須



 以上のように、本格導入予定の排出量取引制度には改善を要する点が依然として残されています。大事なことは、制度を継続的に見直し、かつ不断の改善を続けていくことです。そして、そのプロセスは広く社会に開かれた、透明性あるものでなければなりません。
 今後28年度からは化石燃料賦課金(化石燃料の輸入事業者等を対象とし化石燃料に由来する二酸化炭素の量に応じた賦課金)の導入も予定されています。化石燃料の使用に対する負担が増えることで、企業の脱炭素化がさらに進むと期待されます。
 さらに33年度からは発電事業者向けの有償オークションが導入され、電力部門の脱炭素化が加速する見込みです。
 政府はこれらのカーボンプライシングによる収入を企業のグリーントランスフォーメーション(GX)投資支援の「GX経済移行債」の償還財源にすることとしています。この移行債は10年間で20兆円発行されます。
 排出量取引制度をはじめとしたカーボンプライシングは、企業にとって大きな変革をもたらします。しかしながらそれは、同時に新たなビジネスチャンスを生み出す可能性もあり、避けては通れない道なのです。