アメリカにおける科学の軽視と気候政策の後退
本稿が公表されるころにはブラジルでのCOP30(第30回国連気候変動枠組条約締約国会議)が閉幕していると思われます。その成果はさておき、アメリカ政府はCOP30に正式代表団の派遣を取りやめる一方、トランプ大統領は気候変動を「詐欺」と断じ、気候研究や環境政策を大幅に後退させる一連の施策を実行してきました。アメリカでの科学的知見の軽視が国内外で深刻な影響を及ぼしています。
トランプ大統領は2025年1月に再びパリ協定からの離脱を表明し、国際的な気候変動対策の枠組みから米国を遠ざけました。そして環境保護庁(EPA)や米国海洋大気庁(NOAA)などの政府機関で、気候科学者の大量解雇や研究成果の削除が行われ、「気候変動」や「排出量」といった用語の使用が禁止される事例も報告されています。さらに、風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーへの予算を削減し、石油・天然ガスの増産を推進しています。EV義務化の撤廃やグリーンニューディール政策の終了も含まれます。
国際的な気候外交の進展への介入も行っており、国際海事機関(IMO)での炭素価格制度(カーボンプライシング)導入を阻止するため、米国は関税や制裁をちらつかせて各国に圧力をかけ、国際協調を妨害しました。さらには気候変動報告書の改ざん・否定を行い、政権に都合の良い主張を並べた報告書が発表され、その中には科学的誤りが多数あることが指摘されています。
トランプ大統領のこのような反気候政策の背景にあるのは、反知性主義とポピュリズムであり、科学的根拠よりも政治的利益や支持層への迎合が優先されています。トランプ氏は気候変動を「最大の詐欺」「いかさま」と呼び、科学的合意そのものに懐疑的な立場を取っています。
米国の政策転換により、国際的な気候変動対策の足並みが乱れ、途上国への支援縮小や国際交渉の停滞が懸念されています。トランプ政権の反気候政策は、単なる国内政策の枠を超え、地球規模の環境保護と科学的知見の尊重に対する挑戦といえます。
一方で、国連の国際司法裁判所(ICJ)は「国家には気候変動対策をとる義務がある」との勧告的意見を示し、国際法上の責任を強調していることに注目する必要があります。
トランプ米政権の科学技術政策は、パクス・アメリカーナ(米国による平和)として1世紀にわたり続いてきた米国の覇権国家としての地位を揺るがしかねないものです。予算の大幅な削減など自立すべき研究部門への政治介入は必ず海外の優秀な人材の流入を阻害し、流出さえ招いています。このことは米国を偉大にするどころか、これまで築き上げてきた国際的な存在感を損ない、国家の衰退につながることは明らかです。
日本でも高等教育や科学技術への予算が20年間で大幅に減少
翻って日本の状況を見ると、環境分野に限らず、高等教育や科学技術を軽視する深刻な状況がここ20年以上続いています。
2000年以降、大学部門への予算は全く伸びていません。一方、米国は3・1倍、韓国は6・6倍、中国は28・4倍になっています。これに対し、日本の大学部門への予算は実質的に減少しており、特に国立大学の運営費交付金は20年間で大幅に減少しています。
国立大学は法人化により独立した法人格を持ち、予算は「一括交付金」方式に変更。「効率化係数」(年率1%削減)や「大学改革促進係数」「機能強化促進係数」などが導入され、制度的に予算削減が組み込まれた構造となりました。20年間で交付金の総額は名目で13・1%(1631億円)減少し、初期の交付額(約1兆2415億円)から現在は約1兆784億円にまで減少。物価上昇を考慮すると実質ベースでは18?20%の削減となり、大学の研究・教育活動に深刻な影響を与えています。
運営費交付金の減少を補うため、科研費や受託研究、共同研究などの競争的資金や外部資金への依存が高まり、そのため安定的な研究環境の確保が困難になり、特に地方大学や若手研究者にとっては厳しい状況が生じています。具体的には、任期付きポストの増加により、安定したキャリア形成が困難となり若手研究者の雇用が不安定化し、資金獲得競争に不利な地方大学では、教育・研究機能の維持が難しくなっています。そして論文数や国際的な研究評価の面で、日本の大学は相対的に地位を下げてしまっているのです
現在文部科学省や内閣府は、大学の機能強化やイノベーション創出に向けた再編・連携を模索していますが、安定的な基盤的予算の確保が不可欠です。高等教育への公的支出はGDP比0・5%とOECD加盟国の最低水準であり、国際的にも極めて低い水準にあることが問題です。日本の大学部門は制度的・財政的に厳しい状況が続いており、持続可能な教育・研究体制の再構築が急務です。























