もちろん現実のイラン・イスラム共和国はそんな夢物語とは程遠い。
いまや1979年のイラン革命以来最大の地殻変動期を迎えている。気まぐれなトランプ米大統領の再登場と反米イランの核武装への執着は、中東地域の不確実性を危険なまで高めている。
ついに直接軍事衝突へ
数年前まで米国とイランの関係は「代理戦争」のレベルにとどまっていた。両国とも「直接戦うことは避けたい」という地政学的な相互抑止が効いていたからだ。
しかし2023年10月、パレスチナのイスラム組織ハマスはイスラエルに前例のない大規模な奇襲攻撃を決行。それに対してイスラエルは、ハマスを代理勢力として使うイランに直接攻撃を開始した。
それだけではない。政治の魔術師と呼ばれるほど狡猾なネタニアフは、対イラン軍事介入に否定的だったトランプを巻き込んだ。
ネタニアフの口車に乗せられたトランプは、「イランの核開発を阻止」を理由にイラン国内の核関連施設に大型地下貫通爆弾による空爆と巡航ミサイルを撃ち込んだ。恐れていた直接軍事衝突だ。
これに対しイランは、カタールにある中東最大の空軍基地を含む、中東各地の米軍基地に対して電撃的にミサイル攻撃を実施。この「12日戦争」はイランとイスラエルがそれぞれ勝利宣言の上で米国が仲裁して停戦となった。
イスラエルと米国の攻撃でイランは壊滅的な打撃を受けたはずだ。だが数ヵ月経っても、イランが引き下がる兆しはない。イランは米軍との交渉に応じる一方、最高指導者であるハメネイ師は「攻撃があれば地域戦争になる」と発言し、報復も辞さない姿勢だ。イランはまだかなりの短距離弾道ミサイルや長距離ドローンを保有しているようだ。
だが国内情勢をみると、イラン・イスラム革命が成立してから47年、革命体制の制度疲労は明らかだ。長い国際的孤立や低迷する経済に国民の不満は限界にまで達している。2025年には食品価格のインフレ率が70%を超え、通貨リアルは対米ドルで過去最低を記録した。
イランは豊富な石油資源により経済的に豊かなはずだ。だがその富は革命防衛隊を中心とする宗教勢力が実質的に支配している。加えて核開発疑惑により欧米が課した厳しい経済制裁によって、一般国民の生活はますます苦しくなっている。
さらには、ネット情報に日々接しているイスラム革命を知らない若い世代の怒りがイラン社会の不安定を悪化させているのだ。
先は遠い終わりの始まり
昨年末にイランの首都テヘランで始まった政府に対する抗議デモは、ついに185都市以上に広がり、治安部隊との衝突で2000人以上が死亡する事態に発展した。
だが、イスラム革命以来、イラン当局は時間と資金を掛けて強烈で冷酷な抑圧のネットワークを構築しており、治安部隊が忠誠を保っている。その証拠に、激しい反政府デモは犠牲をいとわぬ厳しい弾圧ですっかりしぼんでしまった。
ふたたびアメリカによるイラン攻撃はあるのか――。そんな不安が中東地域に広がっている。核開発の放棄を迫るトランプは、「次の攻撃ははるかに深刻なものになる」「必要なら、迅速かつ暴力的に任務を遂行する用意、意欲、能力がある」とイランに脅しをかけている。
イランをめぐる核危機が再燃すれば、イスラエルとイランの対立がエスカレートし、湾岸諸国の石油施設なども巻き添えを食らいかねない。
既にアメリカの軍事力を象徴する最強の存在である空母打撃群が湾岸地域に入り、攻撃の体制を整えているようだ。BBC検証チームによれば、多数の米軍機と給油タンカーがこの地域に到着していることが確認されたという。
しかし、イランは日本の約4倍の国土に約9000万人が暮らしている。ペルシャ語を母語とするペルシャ人が人口の約5~6割。残りはクルドやトルコ系、アラブといった多様な言語、エスニック集団が占め、さらには数百万人のアフガン難民も暮らしている複雑な社会だ。米国が実力行使で最高指導者ハメネイ師を排除したとしても、革命体制の暴力装置である革命防衛隊が主導権を握る軍事政権が出現しかねない。
革命防衛隊は推定約15万人の規模の陸・海・空軍などで構成され、イラン経済においても大きな役割を果たしている。その経済活動は軍需産業をはじめ、建設、石油、ガス、通信、金融の分野から闇経済にまで幅広く関わっており、一説には革命防衛隊の収益はイランの国民生産の4割に相当するともいわれている。
たとえ現在が半世紀続いたイラン・イスラム革命政権の「終わりの始まり」だとしても、結末まではまだ長い時間がかかりそうだ。



























